教育を考える 2019.10.22

自力で考え、行動する人間になるための「自己実現力」――判断できる子の習慣

編集部
自力で考え、行動する人間になるための「自己実現力」――判断できる子の習慣

いま、教育や人材育成の現場では、「自己実現力」が重要視されています。

自分で考えること、行動すること、学ぶことを促進してくれるのだとか。それらの説明とともに、子どもの自己実現力を高めるために、親ができることを紹介します。

「自己実現力」がなければ社会で活躍できない!

社会で活躍していくためには、知性以外にコンピテンシーを高めることが必要だと考えられています。コンピテンシーとは、社会で成果をあげている人々に共通する行動・態度・思考のこと。

今回のテーマである「自己実現力」は、そのコンピテンシーを定義する項目のひとつ。文部科学省 中央教育審議会、立命館大学、山口大学、中央大学などの資料を参考にすると、自己実現力は次のとおりに説明されます。

  • 自己の能力や可能性を最大限に発揮するため、常に新しい目標を求める
  • 目標達成に必要な自己管理を行ない、改善を工夫し、的確に行動する

つまり「自己実現力」とは、「自分がやりたいことを、自分で見つけ、実際にやっていく力」です。

判断できる子の習慣2

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自己実現力のある子どもの特徴

子どもが「自分で起きられる」「すすんで顔を洗える」「こぼしたものを自分でふける」のは、喜ばしい自立だと親は考えるでしょう。

しかし、教育評論家の親野智可等さんは、子どものうちに伸ばすべきほんとうに大切な自立とは、自己実現力だと説明します。

自己実現力のある子どもたちは、親がやってほしいことだけではなく、自分のこうしたい・ああしたいを見つけるのが上手で、やっていく行動力もあります。結果として、たとえば次のように “親がやってほしいこと” にもつながるわけです。

  • 朝早くからやっているテレビアニメをみたい→→→早起きする
  • 先生がにっこり笑うのを見たい→→→きちんと挨拶する
  • 好きな絵本をすぐ取り出せるようにしたい→→→片づける

 
また、自己実現力を伸ばしながら成長すると、

  • 希望の職に就きたいから→→→資格をとるために頑張る
  • 夢をかなえたいから→→→今は〇〇を我慢する
  • もっと成長したいから→→→→学び続ける

 
といった力が備わっていきます。

これから子どもに自己実現力が求められる理由

1983年に刊行された『思考の整理学』の中で、著者の外山滋比古さんは、「これからの時代で必要とされるのは、いわれたことだけキッチリできるグライダー人間ではなく、自力で考え、飛び回ることができる飛行機人間だ」と説明しています。

この本を、いまだに多くのメディアがとりあげ、東大生や京大生が根強く支持しているのは、いま、これからがまさに予測不可能な時代であり、主体性のある飛行機人間になることが不可欠であるからです。

80年代はコンピューターが台頭しはじめた時代。「自分で飛べない人間(グライダー人間)は、いずれコンピューターに仕事を奪われる」と、当時すでに外山滋比古さんは注意をうながしていました。

いまはAIが台頭しロボットがタコ焼きを焼く時代です。「自分がやりたいことを自分で見つけ、実行していく力」は、これからの時代を生き抜いていくために、どうしても必要なのです。

判断できる子の習慣3

子どもの自己実現力を高めるためにできること

では、子どもの自己実現力を高めるために、なにができるでしょう?

親野智可等さんは「子どもがやりたがることを、やらせてあげるのがいちばん」だとアドバイスしています。また、そばで見守り、応援してあげることも大切なのだそう。

自分ではじめたことを応援してもらえると自信がついて、自己肯定感(ありのままの自分を受け入れる気持ち)が高まるからです。そうやって自己実現の喜びを味わうことができれば、より自らの意思で行動するようになるとのこと。

ただし、ちょっとした導きは必要なのだそう。具体的に説明しましょう。

「やりたい」を見つけてもらう

なにが好きなのか、なにが良いのかわからない状態で、子どもが判断するのは難しいもの。はじめは子どもに対し、紹介や推薦が必要だと親野智可等さんはいいます。

おもしろそうな本があるよ。
このブロックで遊んでみる?
公民館で折り紙教室があるよ。

といった具合に、自分がやりたいことを自分で見つけ、実行してもらえるよう、まずはいろんな情報を与えてあげるわけです。そのあとは、子どもに判断を任せるだけ。

フランシスコ会の修道女、学校教師、大学講師という経歴をもち、楽しい子育ての知恵で国際的な評価を得ている講演家のバーバラ・コロローソさんも、「判断を任せれば子どもはグンと成長する」と述べています。

「納得」するまで見守りと応援を

モンテッソーリ教育を受けていた藤井聡太七段(2019年10月22日現在)は、教育の一環である「ハートバッグ(ハート型の格子編み)」づくりを、夢中になって延々と続けていたそうです。

吉祥寺こどもの家園長、モンテッソーリ ラ・パーチェ トレーニングコース代表の百枝義雄さんによると、子どもは繰り返し同じ活動に取り組むことで、

  • つぎはもっと速く
  • つぎは色を変えて
  • つぎはもっと完璧に

 
などと自分で考え、工夫していくのだそうです。つまり、同じことに取り組んでばかりで、あまりアクティブに見えない場合でも、十分に子どもは自己実現力を鍛えているわけです。

もしも、子どもが“なにか”に夢中になりはじめたら、「こんな色にしたら?」「違うのもつくってみたら?」「こうしたらもっと速くなるよ」などとあれこれ助けようとせず、子ども自身が納得するまで、その活動を見守ってあげましょう

ただし、励ましや応援の言葉は、いつでも、たくさんかけてあげてください。

自律性や遊んで学ぶことなどを教育方針にしている「学校法人伸びる会学園」は、子どもの主体的な行動のプロセスにこそ「学び」が生まれると説明しています。失敗しても、時間がかかっても、繰り返し取り組むなかで子どもに気づいてもらい、自ら行動する機会をもつことが大切とのことです。

判断できる子の習慣4

***
文部科学省 中央教育審議会の資料には、もともと人間は好奇心のかたまりなので、「なに?」「なぜ?」と疑問を持ち、発見することを積みかさねて成長する、とあります。

ぜひ、子どもの興味がのびのび広がっていくよう、見守り、応援してあげてくださいね。

(参考)
文部科学省|第3章 青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促すために-重視すべき視点と方策-
伊藤陽一(2016),「子ども達の自己実現を目指した学級経営の在り方 ―「授業づくり」と「規範意識の育成」を通して―」, 立命館教職教育研究,特別号, pp.25-33.
PMI日本支部|【2015年 山口大学】 Generic Skillにおけるロジカルシンキング教育の取り組み
バーバラ・コロローソ著, 田栗美奈子訳(2015),『子どもの力を引き出すシンプルな習慣 自分の力でやってみる喜びを育む』, カンゼン.
外山滋比古著(1986),『思考の整理学』, 筑摩書房.
東洋経済オンライン|フラリーマンを作り出す「日本のしつけ主義」
東洋経済オンライン|男の子の才能を伸ばす親はあえて「放置」する
PHPファミリー|これからの時代求められるのは「自分で考える力」!
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中央大学|コンピテンシーについて
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