教育を考える 2021.11.16

「親がうざい!」と感じるのは成長の証? 脳科学者・中野信子先生がひもとく、子どもの「イヤな気持ち」の仕組み

長野真弓
「親がうざい!」と感じるのは成長の証? 脳科学者・中野信子先生がひもとく、子どもの「イヤな気持ち」の仕組み

友だち関係や勉強のことなど、子どもたちはさまざまな悩みやストレスを抱えて生きています。漠然と「イヤ〜な気持ち」が湧いてきて、モヤモヤ。ときにイライラしたり、泣きたくなったりもするでしょう。

子どもが悩んでいる姿を見るのは、親としてはつらいものですよね。だからつい元気を出してほしくて、「そんなことないよ。大丈夫だよ!」「気にしない気にしない」なんて、無理やりポジティブな声かけをしていませんか?

でもその声かけは本当に正しいものでしょうか。そもそもなぜ、「イヤな気持ち」が起こるのでしょうか? 今回は、脳科学者・中野信子先生のアドバイスを参考に、脳科学の観点から子どもたちの悩みを考えていきます。

写真/川しまゆうこ

子どもたちはどんなことに悩んでいる?

コロナ禍以降、「新しい生活様式」に、あなたの子どもはうまく対応できていますか? 「うちの子は、対応できていると思う」「悩んでいるようには見えない」など、子どもそれぞれの性格によっては、コロナ禍前と変わらない日常を送っているかもしれません。

しかし、発達途中である子どもの心はとてもデリケート。国立研究開発法人 国立成育医療研究センターの調査(2020年)によると、なんと全体の7割以上の子ども(未就学児~高校生)に、何らかのストレス反応・症状があったそうです。

  • 全体の約5割の子どもが、「最近集中できない」と答えている
  • 全体の約2割の子どもが、友だちとの関係に何かしら悩みを抱えている
  • 小学1〜3年生の約2割が、「誰かと一緒にいても、自分はひとりぼっちだと感じる」と回答
  • 小学4~6年生の約4割が「自分はダメな人間または失敗者だと感じる、または自分自身あるいは家族をがっかりさせていると思う」と答えている

 
このように、多くの子どもたちがストレスを感じています。もしかしたら、 “悩んでいるようには見えない” 子どももじつは悩みやストレスを抱えているかもしれません。もしそうならば、どうにかしてストレスをゼロにしてあげたいと思うのが親心だと思います。

でも、それはちょっと待ってほしいのです。中野先生は、「悩みがなければ人間は生きていけない」と断言します。次項で詳しく説明しましょう。

親がうざい1

今すぐ「Famm無料撮影会イベント」に行くべき4つの理由。写真で「自立心」や「自己肯定感」がアップする!
PR

悩みがなければ、人は生きていけない

悩みに対して、「こんなことで、くよくよ悩んでいる自分が情けない」と、自己否定してしまう人は少なくないはずです。しかし、「悩みがなければ人間はうまく生きていけません」と、中野先生は述べています。

なぜなら、自分にとってイヤで、なにか困ったことがあるからこそ、「なんとかしなきゃ!」と思ってがんばることができるからです。
これは「ねたみ」などの、マイナスな気持ちでも同じです。誰かのことがうらやましいから、「わたしもあの人みたいになりたい」という気持ちが生まれ、自分を変えていく力になります。

(引用元:中野信子(2021),『中野信子のこども脳科学 「イヤな気持ち」をエネルギーに変える!』, フレーベル館.)

なるほど、「イヤな気持ちや悩みは、むしろあったほうがいい」のですね。ですから、「〇〇ちゃんの絵ばかり先生がほめていて悔しかった。イヤな気持ちだった」と言っていたら、「イヤな気持ちをもつことは悪いことじゃないよ。その悔しいという気持ちは、エネルギーになるよ」と伝えてあげるといいでしょう。

「『イヤな気持ち』を自分の力に変えていくと、人生はもっと楽しくなる!」と中野先生も断言しているように、子どもが自分の気持ちを受け入れて、「悩みがあるからこそ、人生が豊かになるのだ」と考えられるようになるといいですね。

親がうざい2

「親がうざい!」と反抗する子どもにはどう対応する?

そうはいっても、そのイヤな気持ちの矛先が親に向けられたときはどうしたらいいのでしょうか? そうなると、なかなか冷静ではいられないかもしれません。

子どもが親に反抗してくるとき、子どもの頭のなかでは何が起こっているのでしょう? 中野先生は子どもの反抗について、人間がもっている「物事を自分に都合よくとらえる性質」に原因があると解説します。

よくよく思い起こすと、親はあなたをほめてくれたり、やさしい言葉をかけてくれたりしているはずです。でも人間は、いいことをたくさんいわれても、ひとつイヤなことをいわれたらその耳ざわりなひとことを、いつまでも覚えているものなのです。

(引用元:同上)

子どもが小学校中学年、高学年になってくると、「うるさいな」「わかってるよ」などと親に反抗的な態度をとることが増えてくるかもしれませんが、これは人間の性質上、仕方のないことなのです。そしてこの性質は、子どもの脳の成長プロセスにも関係しています。

一般的に、脳のなかでは、神経細胞(ニューロンといいます)が枝のような突起を伸ばし、情報を伝えるためのネットワークをつくって成長します。このとき、逆にネットワークから、いらない部分を刈り込むことも成長には必要なのです。

(引用元:同上)

子どもの脳は、「〇〇をするのはダメ!」「こうしなさい」などと、親に行動を刈り込まれる、つまり親から行動を修正されることで、スムーズに情報を処理できるようになります。たとえば、「ひじをついて食事をするのはやめなさい」「脱いだ服は洗濯機に入れなさい」と親から言われることで、情報が整理されるというわけです。

このような理由から、親のアドバイスは子どもの成長に必要なものと言えます。しかし、 “小言” を言われる側の子どもは、せっかく成長したネットワークを親が勝手に刈り込むことに抵抗を感じてしまい、「親がうざい!」となるのです。

子どもに反抗的な態度をとられてイライラしそうになったときは、この脳の働きや人間の性質を思い出しましょう。そうすれば、感情的にならずにすむかもしれません。

親がうざい3

脳科学の観点から悩みをひもとくと、生きるのが楽になる

「親がうざい!」などのイヤな気持ちは、「脳が引き起こしている感情のひとつ」。そう、理解しているだけで、子どもも親も生きることが少しだけ楽になるのではないでしょうか。

人間関係の悩み、勉強や将来への不安、劣等感、承認欲求からくる苦しさなど、生きているかぎり悩みはつきません。もし子どもが以下のような悩みを抱えているのであれば、『中野信子のこども脳科学 「イヤな気持ち」をエネルギーに変える!』を読んでみてください。

  • 空気がうまく読めません
  • 人前に出ると緊張して、うまく振る舞えません
  • 失敗すると、とてもはずかしくて、ずっと引きずってしまう
  • 信頼できる友だちができない。浅い付き合いばかりする自分がイヤ
  • 自分の見た目にまるで自信がもてません

 
本書は小学校中学年~高学年向けとされていますが、親世代が読んでもためになる内容です。「イヤな気持ち」を感じる脳の仕組みについて、脳科学の見地からわかりやすく書かれています。

そして、本のなかにある「自分を大切に」という中野先生の温かい言葉が響きます。それもそのはず、中野先生自身が「運動が不得意」「頭痛もち」「感覚が過敏」「コミュニケーションが苦手」などの悩みを抱え、生きづらさを感じながら成長してきたのですから。

中野先生は、「脳を知ることで生きるのが楽になる」と述べています。イヤな気持ちをエネルギーに変える「生きるコツ」が満載の1冊です。本の体裁は子ども向けですが、本質を突く内容なため、親子で読むのも、子どもがひとりで読むのも、大人が読んでから子どもに説明してあげるのもいいと思います。

 
***
子どもの頃、「早く大人になりたい!」と思ったことはありませんか? あなたの子どもも、いままさに、そう感じているかもしれません。でも、中野先生いわく、「脳の成長が早すぎると、伸び幅が小さくなる場合もある」のだそうです。多くの子どもたちが、イヤな気持ちをエネルギーに変えながら、時間をかけて成長できるといいですね。

(参考)
中野信子(2021),『中野信子のこども脳科学 「イヤな気持ち」をエネルギーに変える!』, フレーベル館.
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター|コロナ×こどもアンケート 第1回調査報告書
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター|コロナ×こどもアンケート 第2回調査報告書
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター|コロナ×こどもアンケート 第3回調査報告書
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター|コロナ×こどもアンケート 第4回調査報告書