教育を考える 2019.7.6

無理やりポジティブにならなくていい――“ネガティブな感情”を利用して自己肯定感を育む

無理やりポジティブにならなくていい――“ネガティブな感情”を利用して自己肯定感を育む

日々、子育てをするなかで、「うちの子は、ちょっとネガティブな感情に陥りやすいかも」と思う瞬間があるかもしれません。でも、だからといって急にポジティブ人間に大変身できるわけではないですし、大人だってそう簡単に性格は変えられないのが実情です。

子どもがネガティブな感情になったり、マイナスな出来事に遭遇したりしたとき、親はどうやって乗り越える方法を伝えるべきなのでしょう。

親自身も備えておきたい「思考」を、脳科学者の中野信子さんがレクチャーしてくれます。

構成/岩川悟(slipstream) 写真/塚原孝顕

ネガティブな感情をうまく活用すると、良い結果が出る

ポジティブシンキングの大切さは広く語られるところですが、だからといって、無理やりポジティブになろうとしても、生まれ持った性格などもあるので、実際はなかなかうまくはいかないもの。

じつは、「努力」という面に関していうと、ネガティブな感情を利用したほうが良い結果が出ることもたくさんあります。なぜなら、ネガティブな感情のほうが、モチベーションを保つうえで圧倒的に強いパワーを持っているからです。

「あいつを絶対に見返してやる!」
「いまの境遇に耐えられないから必ず追い抜く!」

そんなネガティブな感情は、油断すると「妬み」や「恨み」に変わりやすいため、一般的には良い感情とはされていません。でも、そこにさえ気をつければ、むしろネガティブな感情が持つパワーをうまく利用してしまえばいいのです。

また、未来を悲観しがちな人もいます。でも、逆にいえば、それは未来に対してしっかり準備ができる可能性が高いということ。考え方を変えるだけで、自分だけの強い武器になる場合があるのです。

自分の性格や感情の傾向を無視していると、かえってストレスを溜めてしまい、心身に良いことはありません。ネガティブな感情を無下に否定せず、しっかりと受け止めて活用していけるからこそ、健全な自己肯定感が育まれるのだと思います。

“ネガティブな感情”を利用して自己肯定感を育む2

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「マイナスの出来事」にこだわらず、事実として受け入れることから、プラスの出来事が生まれる

多くの人は自分にとって「マイナスの出来事」が起きたとき、ネガティブな感情に陥ります。そして「マイナスの出来事」は、およそどんな人にでも起こるもの。むしろ、なにかを達成したり成功したりした人のほうが、そうではない人よりも「マイナスの出来事」をたくさん体験している場合もあるようです。

でも、そんな人たちは、「マイナスの出来事」のとらえ方が異なります。そのときは深く落ち込むこともあると思いますが、すぐに「どうすればよかったのだろう」「いまなにができるだろう」と、気持ちを切り替えることがとても上手なのです。

これは言葉でいうのは簡単ですが、実行するのは難しい。でも、チャレンジしてみる価値はあります。そのためのコツは、「マイナスの出来事」にこだわらないようにすること。うまくいかない人は、失敗などにこだわり過ぎて、自分で自分の状況を悪くしている場合がほとんどなのです。

考えてみると、人生の運命が決せられるほどの、よほど大きな「マイナスの出来事」でない限り、ほとんどの「マイナスの出来事」は、俯瞰すればそのときどきの揺らぎ程度のものととらえることもできます。また、よくいわれるように、「失敗は成功の母」であることは、これまでの人間の歴史が証明しています。

自分に起きた「マイナスの出来事」を、まず事実として受け入れることから、プラスの出来事が生まれるのです。

“ネガティブな感情”を利用して自己肯定感を育む3

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小さな子どもがこうした思考を身につけるのは、そう簡単ではないでしょう。でも、徐々にでも習慣づけていく努力をすることや、親がこうしたスタンスで生きる姿を子どもに見せることはできるはずです。

「ポジティブに生きよう!」と口に出すのは簡単ですが、いちど、ネガティブな感情やマイナスな出来事に対して、親子で一緒に向き合ってみてはいかがでしょうか。

※今コラムは、中野信子著『脳科学で自分を変える! 自己肯定感が高まる脳の使い方』(セブン&アイ出版)をアレンジしたものです。

脳科学で自分を変える! 自己肯定感が高まる脳の使い方
中野信子 著/セブン&アイ出版(2019)
脳科学で自分を変える! 自己肯定感が高まる脳の使い方

【プロフィール】
中野信子(なかの・のぶこ)
1975年、東京都出身。東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。脳科学者・医学博士・認知科学者として横浜市立大学、東日本国際大学などで教鞭を執る。脳科学や心理学の知見を生かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。レギュラー番組として、『大下容子 ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系/毎週金曜コメンテーター)、『英雄たちの選択』(NHK BSプレミアム)、『ホンマでっか! ?TV 』(フジテレビ系)。著書には、『サイコパス』、『不倫』(ともに文藝春秋)、『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館)、『シャーデンフロイデ他人を引きずり下ろす快感』(幻冬舎)、『メタル脳 天才は残酷な音楽を好む』(KADOKAWA)、『あの人の心を見抜く脳科学の言葉』(セブン&アイ出版)、『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』(小学館)などがある。