教育を考える 2018.12.10

「模倣となりきり」で想像力が伸びる――感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」

「模倣となりきり」で想像力が伸びる――感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」

ドイツで生まれた「シュタイナー教育」(インタビュー第1回参照)を、幼稚園から一般の高校にあたる高等部まで、15年間の一貫教育でおこなう東京賢治シュタイナー学校。その幼児部「たんぽぽこどもの園」ではどのような活動をしていて、それらは一般の幼稚園とどうちがうのでしょうか。幼児部教師の池田真紀先生に、まずは1日のスケジュールから教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/石塚雅人(インタビュー・校内撮影のみ)
記事冒頭画像:東京賢治シュタイナー学校 校内

紙芝居や絵本でなく「素話」である意味

――たんぽぽこどもの園では、子どもたちがどんな活動をしているのか、1日のスケジュールを教えてください。

池田先生:
8時15分から8時半までの間が登園時間で、その後、室内で「自由遊び」があります。お絵描きやごっこ遊び、積み木遊び、それから針でなにかを縫うといった手仕事など、さまざまな遊びをします。

この時間では、大人から指示されて決められた遊びをするのではなく、子どもが遊びを生み出していくことが大切です。子どもたちは、自分が想像したものを、丸太、積み木、布、木、木の実といった、お部屋にあるさまざまな素材を使ってかたちにしていき、さらに友だちと一緒におこなう体験をしていきます。たとえば、おうちをつくって家族ごっこ、オリジナルの物語による人形劇ごっこといった具合です。

代々、子どもたちの中で伝承されて、毎年やるのはお祭りごっこですね。お囃子や獅子、白狐の格好をした子どもたちが、テーブルの上に乗って演じます。まるで本当のお祭りを見ているみたいでとても楽しいですよ。

また、3歳から6歳までの子どもが同じ部屋で過ごしますから、兄弟のように関わり合う姿には温かいものがあります。10時になったら、おもちゃなど使ったものの「お片づけ」。その後は「ライゲン」という活動をします。

――そのライゲンというのはどんなものですか?

池田先生:
一般の幼稚園でいうところの、「リズム遊び」に近いものですね。内容は季節を取り入れたもので、歌や音、言葉とともにその物語のなかで想像しながら教師とともに動きます。たとえば、教師がハトになったらハトに、ネズミになったらネズミにと、みんなで輪になって教師の模倣をします。

7歳までの子どもは、模倣することであらゆることを身につけることができます。それも、どのような思いでその行為をしているのかという内面のありようまで模倣する。

また、ライゲンでは、みんなで「中心に集まる~広がる」「ジャンプ~小さくなる」などの対の動きも取り入れます。それは、「収縮と拡散」「静と動」というリズミカルな動きの体験です。こういった動きも教師と一緒にすることで、子どもたちの体が健全につくられていくのです。

感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」2

――なるほど。スケジュールの続きを教えてください。

池田先生:
11時になったら「お弁当」の時間。そして、今度は外での「自由遊び」をします。

子どもたちはとてもダイナミックに遊びます。のぼり棒にロープを横にかけると、そこはお猿島。てっぺんにはかわいい子ザルに扮した子どもがいます。ブランコも子どもたちは大好き。ふたつのブランコに板を渡すと、何と6人乗りの宇宙船に。ジャングルジムにも板をかけて、2階建てや屋根付きのおうちをつくります。

その他、鬼ごっこ、縄跳び、竹馬、砂山つくり、泥だんごやごちそうつくり、などなど、とにかく体を動かし、感覚をフルに働かせて遊ぶ時間です。

1時間ほど遊んだら、またおもちゃをすべてもとの場所に戻して、お部屋に入ったら「お着替え」です。みんなが着替え終わるまでお絵描きをして待って、最後に「お話」の時間がある。これは、「素話」です。紙芝居や絵本を見せるのではなく、教師が子どもたちを見渡しながらお話をするということですね。

――それにはどんな理由があるのですか?

池田先生:
わたしたちはファンタジーの力と呼びますが、幼い子どもは、たとえば、雲を大好きなクマに見立てるなど、強い想像力を持っています。教師の素話によって、子どもはたくさんのイメージをつくることができる。そのイメージを大切にすればするほど、内側の世界が豊かになり、その後の思春期における内面形成、思考形成の土台になるのです。お話は10分から15分程度。そして、13時半に降園となります。

【たんぽぽこどもの園の1日】

08:30 登園、自由遊び(室内)
10:00 片づけ、ライゲン
11:00 お弁当、自由遊び(戸外)
12:30 片づけ・着替え、お話
13:30 降園

感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」3
東京賢治シュタイナー学校 校内

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決まったリズムと繰り返しが健康な体をつくる

――このスケジュールはずっと変わらないものですか?

池田先生:
いえ、わたしたちは「1週間のリズム」と呼びますが、曜日によって少しだけ内容が変わります。たとえば、火曜日は「自由遊び」の時間に「にじみ絵」という絵の具を使った活動、水曜日はライゲンの代わりに「オイリュトミー」という身体表現をします。

【たんぽぽこどもの園の1週間のリズム】

月曜日:お散歩
火曜日:にじみ絵
水曜日:オイリュトミー
木曜日:みつろう粘土
金曜日:お掃除

池田先生:
でも、朝の自由遊びを、日によって10時までにしたり11時までにしたりするといったことはなく、1日の基本的な流れはずっと一緒ですね。なぜかというと、子どもは「繰り返す」ことで「安心感」を得るからです。

いつもより自由遊びの時間が長いなど、やることが変わると子どもはドキドキして不安になってしまう。毎日、同じリズムで子どもが安心して過ごせることは、気持ち良く呼吸できて、脈拍が整うことにもなります。このリズムと繰り返しが、健康な体をつくっていきます

――オイリュトミーとはどんな活動なのでしょうか。

池田先生:
オイリュトミー用のドレスを着て、専科の教師の話を聴きながらいろいろな動きをするというものです。幼児においては、体を生き生きとさせる効果があります。

――ライゲンとのちがいはどういったものになりますか?

池田先生:
オイリュトミーは、たとえば、言葉なら「く」や「う」の動き、音程なら「ラ」や「ミ」の動きというふうに手や腕の位置、動きが決まっています。一方、ライゲンにはそういう決まりはありません。言葉で説明するのは難しいのですが、ライゲンはイメージしながら動くものですね。

感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」4

スケジュールはただの時間の区切りではない

――一般の幼稚園との大きなちがいはどこにあると考えていますか。

池田先生:
一般の幼稚園も、スケジュールは決まっているかと思います。ただ、わたしたちの園では、それによってなにが子どもにもたらされるかという観点をとても大切にしています。

どうして絵本ではなく素話にするかということもお伝えしましたが、わたしたちの園でおこなう内容には、一つひとつに意味があります。お片づけもそう。お片づけはみんなが取り組みます。それも、年少さんはひもを巻く、年長さんは大きな積み木を運ぶというふうに役割が決まっている。毎日その時間になると、お部屋中に広がったおもちゃを決まった場所に戻してあげて、お部屋が綺麗になり、全員が「気持ち良くなった」という体験をする。この体験は、一人ひとりに「収縮と拡散」の心地よいリズムを与えます。シンプルですが、すべての行為に意味があるのです。

感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」5

東京賢治シュタイナー学校

東京賢治シュタイナー学校幼児部たんぽぽこどもの園

■ 東京賢治シュタイナー学校 インタビュー一覧
第1回:「点数」で子どもを評価しない――力強い意志を育む「シュタイナー教育」の本質
第2回:「模倣となりきり」で想像力が伸びる――感覚がフル稼働する「シュタイナー教育の1日」
第3回:お片づけに“小人さん”が登場!?――「豊かなイメージ」が日々の子育てにも生きる
第4回:1年生が「円形の席」で学ぶこと――シュタイナー教育が重視する「学びのベース」

【プロフィール】
東京賢治シュタイナー学校
1994年、30年以上にわたり公教育に携わった鳥山敏子氏が公立学校を退職し、天地人のつながりのなかに生きようとした宮沢賢治の生き方を理想として長野・美麻に若者のための学びの場「賢治の学校」を立ち上げる。その後、ドイツのシュタイナー学校の見学をとおして「子どものための学校」こそ必要だとし、1997年に東京・立川に拠点を移して前身である「東京賢治の学校」を創設。1999年に幼児部、2005年には高等部を開設。2013年より現校名となる。

池田真紀(いけだ・まき)
東京賢治シュタイナー学校幼児部教師(クラス担任)。「古くならないいまの時代に合ったシュタイナー教育」を目指す。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。