昔、武田鉄矢さんが「言葉の成り立ちや語源を調べるとエクスタシーを感じる」と仰っていました。言葉を調べて、語源や意味が分かったときのあの感覚が、私も大好きです。それは子どもたちも同じだと思います。もともと人間は知らなかったことを分かるようになる「学習」が好きなのです。そのとき、快感を得るのは、人間だけにある素晴らしい特性なのかもしれません。
こんにちは。ゆか先生です。前回は、国語辞典の実践的な使い方を紹介しました。今回は、子どもの「学習欲」を満たす、漢字辞典、百科事典、ことわざ辞典、慣用句辞典、四字熟語辞典、語源辞典など、子ども向けの辞典を紹介します。お子さんの興味にあわせてゆっくりそろえていくのも良いでしょう。
漢字辞典で自分の名前を引いてみよう
漢字辞典を選ぶ基本条件は、連載第2回でもお伝えした国語辞典の選び方と同じです。まず、子ども自身が選ぶこと、そして実際に書店で引いてみることです。また、国語辞典と違う点は、書き順や成り立ちについての項目ですね。それらが詳しく載っているものがよいでしょう。トメハネなども詳しく書かれていると良いです。試しに、自分の名前で使われている漢字を引いてみるといいと思います。
漢字辞典は、国語辞典と違い、まだ読めない漢字を引くわけですから、「引きやすい」ことが大切です。小学生のうちは、部首から引くことは少ないと思います。部首の判別が難しいからです。ですから、総画数や読み方で、きちんと目的の言葉にたどり着けるものを選びましょう。
漢字辞典は、移行措置期間
辞書によっては、学習学年順に並んでいるものもあります。その際注意してほしいのは、今(2019年)が、新要綱への移行時期にあるという点です。新要綱では、都道府県に用いる漢字25字が4年生に配当されます。それにともない、児童の漢字学習の負担を軽減するため、32字の配当学年が移行しました。また、小学生で学習する漢字の移動ならば良いのですが、今回は小学生用の漢字辞典にはない漢字も25字加わったので、古い辞書だと載っていない場合があるということです。
対応済みのものもありますが、そうでないものは、対応表が付録で付いているはずですので、きちんと確認しましょう。
茨、媛、岡、潟、岐、熊、香、佐、埼、崎、滋、鹿、縄、井、沖、栃、奈、梨、阪、阜
このほか、賀、群、徳、富の4字が5年生から、城の1字が6年生から4年生へ移行。
主な小学生向け漢字辞典
■ 学研『新レインボー 小学漢字辞典』改訂第5版小型版
加納喜光(監修)
学研からは、他にワイド版、ミッキー&ミニー版などが出ています。また幼児向けに『新レインボー はじめて漢字辞典』もあります。
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■ 光村教育図書『小学新漢字辞典』改訂版
甲斐睦朗(監修)
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■ 三省堂『例解小学漢字辞典』第五版
林四郎、大村はま(監修)/月本雅幸、濱口富士雄(編集)
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■ 小学館『例解学習漢字辞典』第八版・オールカラー版
藤堂明保(編集)、深谷圭助(編集代表)
小学館からは、他に通常B6版も出ています。また、ドラえもん仕様の『ドラえもん はじめての漢字辞典』もあります。
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百科事典は調べ方を楽しく練習するのに最適
百科事典は、語彙というより知識を増やすものです。眺めるだけでも楽しいのですが、こちらも「調べ学習」の基礎となる力が養えるものですから、親子で調べ方を練習するのも良いかと思います。
眺めるだけでも楽しい『どうぶつ』や『しょくぶつ』などの事典は、分類がしっかりしているものもありますので、調べごととしても使えます。また、DVD付きのものもあり、小さい子でもスムースに興味が持てるように工夫されています。さらに、動物、植物などのカテゴリをこえ、絵入り国語辞典のように、子どもが興味を持ちそうな、さまざまなことがらについて五十音順に並べた事典もあります。
■ 小学館「プレNEOシリーズ」(3歳~)
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■小学館『小学館子ども大百科』
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■ ポプラ社「ポプラディア大図鑑WONDAシリーズ」
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選び方に注意が必要! 知識を増やす辞典のシリーズ
ことわざ、慣用句、四字熟語など、いわゆる「知識分野」の辞典も数多く出ています。私の講座では、小2で慣用句、小3でことわざ、小4で四字熟語を教えています。発達段階に応じたカリキュラムを考えた時に、この設定にしましたが、問題なく、効果的に学習できているようです。
ただ、未就学児や小1では難しいかもしれません。でも、例えば上に兄弟姉妹がいる場合などは、上のお子さんが習うこのような知識分野に、早くから興味を持つこともあります。そのときの「興味の芽」のようなものを摘まないようにしたいもの。最近はイラストも多く、漫画で解説しているものも多いので、読み物として自然に学習できると思います。
この分野の本は、特に、シリーズ化されているものが多いですね。ひとつ買ったらそのシリーズでそろえたくなりますが、ちょっと注意が必要です。
1. 登場人物の性格や背景が分かるものを選ぶ
「虎の威を借る狐」ということわざがあります。力のある者に頼って、威張る小者のことをいいますが、例えば「ドラえもん」だと、このことわざを説明するために使われる登場人物は、ジャイアンのそばにいるスネ夫がふさわしいでしょう。実際に、以下のリストにある、ドラえもんのシリーズでは、このような例文が載っています。
しずか:ああいうのを「虎の威を借る狐」っていうんでしょう?
これは、ジャイアンとスネ夫の正確や力関係を知っているほど、理解が深まる例といえますね。キャラクターものはついそろえたくなりますが、その際は、登場人物や背景についてよく知っているものにする方が、知識定着の効果があると思います。
このキャラクターものには、ドラえもんシリーズ、ちびまる子ちゃんシリーズ、トムとジェリーシリーズ、クレヨンしんちゃんシリーズなどがあります。
■ 小学館「ドラえもんの学習シリーズ」
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■ 集英社「ちびまる子ちゃん 満点ゲットシリーズ」
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■ 河出書房新社「だいすき!トム&ジェリーわかったシリーズ」
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■ 双葉社「クレヨンしんちゃんのなんでも百科シリーズ」
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2. シリーズでそろえなくてもいい
シリーズでそろえると調べ方が似通っているので、その点では良いのですが、辞典によってそれぞれ監修者が違いますから、実際に書店に出向いて、同じ言葉を引いてみて、比較して選ぶ方法でも良いと思います。キャラクターに頼らないシリーズでも良いものがあります。
再びインターネット検索との比較
分からない言葉や事象に出会ったとき、インターネットで調べるのは確かに早いです。しかし、第2回でもお伝えしましたが、まずは紙の辞書で言葉を調べる方法を学びましょう。そしてその時、寄り道も楽しみましょう。子どもを、わざと言葉の海に航海させるのです。
また、安全面でも、インターネット検索にありがちな、関係のない寄り道、ネットサーフィンの機会がないことが、紙の辞書の最大の特徴かもしれません。
調べたあとが重要。知識の定着に何より大切なこと。
さて、このように知識を増やすタイプの辞典ですが、何よりも大切なことは、調べた言葉を日常生活で使いこなせるようになることです。そのために、保護者の方ができることがあります。それは、実際に使ってみせることです。お子さんは、大人が使っているのを聞いて「そうか! それはそうやって使うのか!」とだんだんと分かっていくのだと思います。
ことわざ……「百聞は一見にしかず。見に行こうか!」
慣用句……「これは骨が折れる仕事だわ~」
四字熟語……「一朝一夕には身につかないわよ」
以前勤務していた、中学受験専門の塾で「今週は慣用句を50個覚える」なんて週がありました。当時は、私もそういうカリキュラムで教えたこともあります。しかし、そのようにして覚えた慣用句は、果たして「慣用」なのでしょうか。私はその点に疑問を感じ、オリジナルのカリキュラムを作り、今の講座開設に至ったという経緯もあります。言葉は使うためにあるのです。試験に出るから覚えるのではなく、日常生活の中で使ってこそ意味があるのだと思います。ぜひ、家の中で、また出かけたときなどに、親子で使ってみてくださいね。
■ 連載『ゆか先生の 国語辞典の世界へようこそ』各回の内容
第1回:国語辞典でこの時代を生きぬくための基本動作が身につく
第2回:子どもにぴったりの国語辞典を選ぼう! 電子辞書ってどうなの?
第3回:初めての国語辞典。カバーは? 置き場所は? どんなふうに引くの?
第4回:ゲーム感覚でやる気をアップ! 付箋紙やノートで記録する方法など
第5回:漢字辞典、百科事典、ことわざ辞典、四字熟語辞典、語源辞典など、子どもの世界の辞典いろいろ
第6回:まとめ 国語辞典を使えるようになった子どもたちのその後