からだを動かす/教育を考える/スポーツ 2019.8.5

反射神経・戦略性・先読み力を必要とする「eスポーツ」。賢い子がハマる理由とは?

編集部
反射神経・戦略性・先読み力を必要とする「eスポーツ」。賢い子がハマる理由とは?

じつは今、ゲームがもたらす教育的効果や有用性が、さまざまな研究によって明らかにされています。ゲームに対するイメージは、「なんとなく教育に悪いもの」から学習に有効活用できるツールへと変わりつつあるのです。

今回は、世界ではすでに700億円もの市場規模にまで発展した “eスポーツ” の将来性に関連して、子どもたちの学習にも取り入れられているゲームの教育的効果について考えていきましょう。

なりたい職業に「eスポーツのプロ選手」がランクイン!?

みなさんも一度は “eスポーツ” という言葉を耳にしたことがあるはずです。でも、それがいったい何を意味するのか、そしてなぜ今注目されているのか、詳しく知っている人はあまりいないのではないでしょうか。

「eスポーツって、ただゲームで対戦することでしょ?」
「ゲームばかりしていたら不健康だし、コミュニケーション能力が低下しそう」
「子どもがプロのゲーマーを目指したいって言い出したらちょっと心配……」

ほとんどの親御さんにとって、ゲームやeスポーツへの認識はこの程度だと思います。とくに私たちが子どものころは、大人から「ゲーム=よくないもの」と言い聞かされていましたよね。だからこそ、自分の子どもがゲームに熱中しすぎないように注意を払っているのではないでしょうか。しかし今、ゲームを取り巻く環境は大きな転換期を迎えています。

2019年に株式会社クラレが実施したアンケートによると、小学生男子の「将来就きたい職業」1位の「スポーツ選手」の内訳に大きな変化があったそう。なんと、定番のサッカー(40.9%)、野球(29.6%)、テニス(6.1%)に次いで、新たに “eスポーツ” が4.3%もの支持を得たのです。それは、バスケットボール(3.5%)よりも高い数字でした。このことからも、eスポーツは子どもたちの間でじわじわと人気の高まりを見せていることがわかります。

脳科学者の茂木健一郎氏は「2020年の教育改革が目前に迫るなか、親の価値観のアップデートが急がれます」と述べています。

親の生きてきた時代と、子どもが生きている時代は違うことを、自覚してほしいですね。僕がおすすめしたいのは、子どもたちに聞き取り調査をすること。たとえば子どもにとっての「スター」の概念が映画俳優からテレビのタレントに代わり、今はユーチューバーがもてはやされているなど、親には想像できない変化があります。

(引用元:洋泉社MOOK(2018),『これからの未来を生き抜く できる子の育て方』, 洋泉社.)

まずは、今の子どもたちが目指したいと思っているものや憧れているものを知り、その理由を理解する必要があるとのこと。「よくわからないけれど、ユーチューバーやプロゲーマーなんてだめ!」では、もはや時代遅れなのかもしれません。

反射神経・戦略性・先読み力を必要とする「eスポーツ」2

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その歴史とeスポーツを取り巻く環境の変化

「eスポーツ」とは「エレクトロニック・スポーツ(electronic sports)」の略称であり、複数人のプレイヤーで対戦するゲームをスポーツと解釈して「eスポーツ」と呼んでいます海外ではプロスポーツとして賞金や集客もビジネスモデル化されているジャンルですが、日本ではまだそこまで浸透していません。

その歴史は意外と古く、1997年にアメリカで設立された「サイバーアスリート・プロフェッショナル・リーグ(CPL)」が、ゲームをして賞金を得る “プロゲーマー” の起源といわれています。

CPLをきっかけにプロ化の流れが本格始動し、日本でも2000年ごろにはプロゲーマーが誕生していたようですが、活動は長続きしなかったそう。その後、2010年に梅原大吾さんが日本人初のプロ格闘ゲーマーになったことで、メディアでも少しずつ取り上げられるようになりました。

そして2018年、インドネシアで開催された「第18回アジア競技大会 ジャカルタ・レバノン」で、ついにeスポーツが公開競技として実施されたのです。さらに、アジアオリンピック評議会とAlisportsは、2022年開催予定の「アジア競技大会中国・杭州」において、公式スポーツプログラムにeスポーツを採用することを発表しました。

このように、eスポーツは着実にその規模を拡大し、ゲームは「家でひとりでやるもの」から大勢の観客の前でテクニックを披露して競い合うスポーツへと変貌を遂げたのです。

反射神経・戦略性・先読み力を必要とする「eスポーツ」3

ゲーミフィケーションは子どもの能力をぐんぐん伸ばす!

人は、努力に対する適切な評価や報酬が得られるとわかると、その行為を持続する傾向があるそう。ほとんどのゲームは課題設定とクリアの繰り返しで進んでいくので、その心理的効果を理解すると、時間を忘れてゲームに夢中になってしまう人が多いこともうなずけます。

ゲーミフィケーションとは、ゲームが人を夢中にする仕組みを利用して、さまざまな問題を解決しようという考え方です。今、そのゲーミフィケーションを活用して、知識や技能などを学ぶために役立てる流れがあるといいます。

海外ではゲーミフィケーションに関する研究がさかんであり、認知的な学習や、物事に対する積極的な態度を身につけるのに効果がある、といった研究結果も出ているそう。また、一般的な教育方法よりも、ゲーム学習のほうが知識や記憶の定着に効果的であるとの結果も出ています。このことからも、ゲームは遊ぶためのものだけではなく、もはや優れた学習ツールとしても評価されていることがわかるでしょう。

日本のゲーミフィケーション研究の第一人者、東京大学総合教育研究センター特任講師・藤本徹先生は、適度なゲームは子どもの発達にポジティブな影響を与えるといいます。その理由として、次の要素を挙げています。

  • ゲームには「課題をどうやって攻略するのか」という先を見通す力より良い手順に気づく力状況を判断する力が必要であることから、それらの能力が自然と身につく。
  • とくにデジタルゲームは、自分のアクションに対するフィードバック(反応)が即座に行なわれるため、瞬発的な対応能力が鍛えられる。
  • 難易度のレベルが上がると、プレイの仕方を調整したり、すぐに別の解決策を試したりできるので、問題解決の能力が向上する。
  • ネット上で「ゲームプレイ動画」や「ゲーム実況」などの動画を見ることも、ひとつの “学習” である。なぜなら、上手な人の状態を見て自分のことに “気づき” を得られる「モデリング学習」を自然とこなしているため。
  • 過去の研究では、子どもがゲームを通して読解力や問題解決能力がついたという報告もされているそうです。楽しみながら効率的に学ぶ手法は、これからますます活用されていくでしょう。

    反射神経・戦略性・先読み力を必要とする「eスポーツ」4

    奥深いeスポーツの魅力をもっと広めよう!

    デジタルゲーム研究の一環としてeスポーツの研究をしている馬場章さんは、まだ研究段階としつつも、eスポーツプレイヤーは、遂行力、達成力、集中力、瞬発力、思考力、あるいは動体視力といった身体的な能力、さらに整理心理的な能力も優れているということが少しずつわかってきています」と述べています。

    そして何より、デジタルゲームは内容によっては仲間と協力して勝ち進んでいかなければなりません。隠されたしかけを一緒に探したり、協力してアイテムを手に入れたりと、目的を達成するための協調性や社会性を培う側面もあるといいます。つまり、プレイするのは自分ひとりでも、他者とのコミュニケーションは必須であり、その能力が優れている人がプロとして活躍できるのです。

    eスポーツが盛んな国では、プロゲーマーはサインを求められるくらい地位が確立されています。その市場規模は約770億円、オーディエンスは2020年には約5億人に達すると予想されているほどです。

    その一方、ゲーム産業の最先進国でありながら、“eスポーツ後進国” の日本では、いまだに一般的な認知度やプレイヤーの地位が低いのが現実です。その原因として、法律の壁や日本人のゲームに対する価値観、また「スポーツらしくない」という先入観などが複雑に絡み合っていることが指摘されています。

    その先入観を払拭するためにも「eスポーツプレイヤーの知能的なすごさを正しく伝えることが重要」と述べるのは、立命館大学ゲーム研究センターの中村彰憲教授です。つまり反射神経や戦略性、先読みや駆け引きのテクニックなど、世界の強豪に勝つ “すごさ” をいかに伝えていくかが今後の課題になる」とのこと。

    ゲームを身近なコミュニケーションツールとしている子どもたちにとって、eスポーツプレイヤーはもうすでに「憧れの対象」として認識されています。大人は新しいものを柔軟に受け入れることが難しいかもしれませんが、子どもからその魅力や楽しさを教えてもらう良いきっかけになりそうですね。

    ***
    現代のゲームは、簡単に知らない相手とコミュニケーションをとることができます。顔が見えない相手には個人情報を教えない・直接連絡をとらないというルールを徹底しましょう。また、1日1~2時間を目安に、適度に休んだり身体を動かしたりするよう意識させてください。ルールさえ守れば、ゲームは子どもの世界を広げて、さまざまな能力を向上させるのに役立つでしょう。

    (参考)
    株式会社クラレ|小学6年生の「将来就きたい職業」、親の「将来就かせたい職業」|小学6年生の「将来就きたい職業」男の子編
    洋泉社MOOK(2018),『これからの未来を生き抜く できる子の育て方』,洋泉社.
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