社会において逃れられないもの――それは「ストレス」です。さまざまな人間関係があり、シビアな成果を求められることが、往々にしてあるからです。
でも、子どものうちにしっかりと「非認知能力」が育まれていれば大丈夫。ストレスに強い人になれるはずですよ。非認知能力とストレスの関係や、子どもの非認知能力を高めるために、わたしたちができることなどを説明します。
ストレスの脳への影響
脳トレーニングジムのプロデューサー髙山雅行氏と、脳科学者の杉浦理砂氏が共著した『ブレインフィットネスバイブル 脳が冴え続ける最強メソッド』によると、ストレスを抱え込んでいる状態とは、不快や怒りなどの「感情」を、「理性」でむりやり押さえつけている状態です。
このように不自然な状態が長く続くと、脳のはたらきが悪くなり、やがて制御不能に陥ってしまうのだとか。さらにストレスが続くと、ストレスホルモンのコルチゾールが過剰に分泌されるため、その影響で脳の海馬が委縮し、記憶力が低下してしまうそうです。
産業医として、通算1万人以上と面談したという武神健之さんは、学生時代にとても優秀だった人が、社会人になってストレスに押しつぶされ、心身ともに疲弊してしまうケースを目にするといいます。
ストレスに強い人、弱い人の違い
厚生労働省の「平成30年 労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、仕事で強いストレスを感じている労働者の割合は、2018年(平成30年)時点で58.0%。半数以上の人が、何らかのストレスを抱えているとわかります。
しかし、誰もが多少なりともストレスを感じていることを前提に、違う見方をしてみると、“4割の人はストレス耐性がある”と考えられるわけです。
50社を超える企業を担当してきた精神科産業医の吉野聡さんは、年々ストレスに強い人と、弱い人の二極化が進んでいると強く感じるそう。同氏いわく、ストレスに強い・弱いの違いは、「物事の捉えかたの違い」なのだとか。
たとえば上司に怒られた際、次の1と2のように、“どう感じるか”の違いです。
- 【ポジティブで建設的】=「気にかけてくれる」「嫌だったけど、ためにはなった」
- 【ネガティブで破壊的】=「どうせ自分なんてダメだ」「上司のほうが悪い」
もちろん、ストレスに強いのは1番目のほう。こうした違いは、性格や育った環境によるものが大きいそうです。
では、どうやって子どもを育てていけば、物事を前向きに捉えられる、ストレスに強い大人になってくれるでしょう。 そのヒントは、「非認知能力」を育むことにありました。
非認知能力とはなにか?
IQとは、読み・書き・計算など「人間が知能をつかって物事を処理する能力をあらわす数値」のこと。そのIQで測ることのできる能力を「認知的能力」と呼びます。
一方で「非認知能力」は、IQで測ることができない次のような能力を指します。
- 目標に向かってがんばる力
- ほかの人とうまくかかわる力
- 感情をコントロールする力
産業医の武神さんの言葉を借りると、非認知能力はいわば「総合的人間力」。
勤勉性、自主性、積極性、外向性、社交性、協調性、共感性、柔軟性、利他性、精神的安定性や、自己肯定感、責任感に、やり抜く力、忍耐力、コミュニケーション力、好奇心、想像力など、数字では測れない、あらゆる能力が含まれているそうです。
非認知能力とストレスの関係
比較的ストレスに強い社会人は、子ども時代に認知能力だけでなく、非認知能力がしっかりと育まれてきた共通点がある、武神さんは説明します。
たとえば社会人として、取引先や職場で人とかかわり仕事をするとき、共感力やコミュニケーション力は欠かせません。気が合わない人とも協力し合わなければならないので、協調性や忍耐力も必要です。成果を求められるため、行動力や、やり抜く力、責任感なども不可欠です。
これらのいずれも、非認知能力にほかなりません。
つまり、非認知能力があれば、どんな環境でも多様な人々と協調でき、転んでも立ち上がり、やり抜くことができます。想像力で人の気持ちを推しはかり、協力的に行動できるので、困ったときには周囲のサポートもあるでしょう。また、たとえば自己肯定感や柔軟性は、気持ちの回復や前向きになる力をあたえます。
そうしたすべてが、ストレスへの防御壁となるわけです。認知能力も必要ですが、ストレスに強くなるためには、認知能力を上まわる非認知能力が必要だと、武神さんは述べています。
非認知能力を高めるためにできること
じつは、わたしたちが子どもの非認知能力を高めるためにできることは、次のとおりとてもシンプルです。
1.「たくさん経験する」機会をあたえる
武神氏は、未就学児であれば、好きなお遊びに好きなだけ、集中して取り組ませてあげるようアドバイスしています。料理やお片付けなどを一緒に行うのも効果的とのこと。
そのなかで大切なのは――
- 「何かに没頭する」を経験する
- 「たくさん褒められる」を経験する
- 「うまくいく」を経験する
- 「うまくいかない」も経験する
――といった具合に、たくさん経験することです。「うまくいかなかった経験」は、ストレスを柔軟に受け止めたり、かわしたりする助けになるでしょう。
2.「自分で考える・選ぶ」機会をあたえる
子ども教育のプロフェッショナル育成に携わる、白梅学園大学子ども学部子ども学科の増田修治教授は、「子どもの話をきちんと聞く」ことが非認知能力を伸ばすために大切だと説明します。
「子どものためになるから」と親の考えを押しつけるのではなく、かといって放任するわけでもなく、「どうする?」「あなたはどうしたい?」と子どもに聞いて一緒に考え、お互いに折り合いをつけていくといいのだそう。
「〇時になったら勉強しなさい」ではなく、「何時になったら勉強できそう?」と、子どもに選択権をわたすことも大切とのことです。
自分で “考える・選ぶ” 機会を持つことは、非認知能力に含まれる自主性や責任感、好奇心や想像力などを育み、ストレスの対処力や問題解決力を高めてくれるはずです。
3.「仲間との体験活動」を応援する
武神さんによると、就学後の非認知能力は、クラブ活動などで仲間たちとコミュニケーションをとりながら、一緒に没頭したり、挑戦したり、成功したり失敗したりする体験を、重ねていくことで伸ばせるそうです。
挑戦や試行錯誤のあとに、達成感や悔しさがあること、理解や発見があることを体感できるでしょう。また、ひとりではムリでも、仲間となら乗り越えられることがあると知り、協力や思いやりの重要性を、身にしみこませていくはずです。
自分には仲間がいる――それがストレスに打ち勝つ力になることは、いうまでもありません。
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2000年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者、ジェームズ・ヘックマン氏らが、40年にわたる長期追跡調査を行い、分析したところ、「非認知能力はその後の認知能力を発達させるが、認知能力がその後の非認知能力を発達させることはない」と結論づけたそうです。
子どものときに非認知能力を伸ばすことは、とても重要なのですね。
(参考)
幻冬舎plus|心理的ストレスが脳に与える悪影響とは?
東洋経済オンライン|産業医が見た「ストレスに弱い人」の決定的要因
厚生労働省|平成30年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況
NIKKEI STYLE|医師が明かす ストレスに強い人、弱い人の決定的違い
東京大学 発達保育実践政策学センター|東大Cedep×凸版印刷 共同研究|「非認知能力を育む幼児教育プログラム開発」
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