教育を考える 2018.5.20

“頭が良い”の定義とは? 子どもの知性を伸ばすために親が知っておくべき2つのこと

“頭が良い”の定義とは? 子どもの知性を伸ばすために親が知っておくべき2つのこと

子どもがこれから生きていく社会がどのように変化し、その社会でどのような能力が求められていくのかといったことは、親にとって気になることのひとつですよね。「我が子に幸せな人生を送ってほしい」と願うからこそ、小さいころからたくさんの習い事をさせる親も増えています。そこで、社会学者の鈴木謙介先生(関西学院大学 社会学部准教授)にこれからの未来を支える子どもたちが幸せに生きていくために、親が知っておきたいことを伺いました。4回連載の1回目は、子どもの「頭を良くする」を考える、です。

構成/岩川悟 取材・文/辻本圭介 写真/玉井美世子

「頭の良さ」を判断する基準は、社会の必要性によって変わる

親にとっては、やはり子どもの「頭を良くする」ことは、とても気になるテーマのひとつだと思われます。でも、「単純に勉強や習い事をさせているだけでいいのかな?」と、疑問に思っている人も多いのではないでしょうか。そんな質問に、鈴木先生はこう答えてくれました。

「まず社会学では、大前提として『頭の良さは社会によって変わる』と考えます。これは、一般的な考え方とはずいぶんちがうと思いませんか? でも、たとえば狩猟社会であったなら、その社会での『頭の良さ』は、おそらく計算能力などではないことは想像できるでしょう。つまり、『頭の良さ』というのは、人間にもともと備わっている知能ではなく、その社会で必要とされている知性のあり方によって変わると考えるべきなのです」

ある社会において、どのような知性が必要とされるのか。社会学では、そうした尺度をより重要なものとして考えるようです。では、いまの日本の社会ではいったいどんなものさしで、「頭の良さ」が判断されているのでしょう。

「それを知るためには、これまでの日本社会で知性がどのように捉えられてきたかを振り返っておきたいところです。まず、戦後の日本における知性のあり方は、最終的に学歴につながるような、学習指導要領というフォーマットに沿って勉強ができることとされていました。こうした教育は、いまでは『詰め込み教育』だとか『応用が効かない』などと批判されることもありますが、そう単純に否定されるべきものではありません。なぜなら、そうした教育が行われたのが、『産業社会』と呼ばれる社会だったからです」

「産業社会」というのは、簡単に言うと「ものづくり」の社会のこと。そして、この社会の特徴を専門用語で表すと、「労働集約型」の社会と言われます。

「つまり、みんなで一斉に同じ仕事をすることが前提となっている社会のことですね。みんなと同じように行動し、同じ規律を守る。会社員であれば、同じ時間に出退社するというタイムスケジュールのなかで働くことが求められる社会です。そして、そのような規格化された働き方が中心である社会では、学校教育においても、学習指導要領に合わせて勉強できることにこそ意味がありました

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
PR

産業構造が変化したことで、これまで必要とされた知性が通用しなくなった

こうした教育制度は、実際に日本の高度経済成長を支える土台となります。また、国民すべてに規格化した教育をすることで、教育のボトムレベルを合わせながら、世界的に見ても非常に高い教育レベルを達成した大きな要因にもなりました。

「しかし、いまの日本社会が直面しているのは、産業構造の変化や新しい産業において求められる能力の変化です。先に言ったように、まさに社会で必要とされる知性が変わりつつあるわけですね。そして、いまの学校教育や知性を測るものさしが、時代の変化に合っていないのでは? と、誰もが疑問に感じはじめているのです」

「頭の良さ」を測るものさしがひとつではないのなら、ものさしが変わることで測られる「頭の良さ」自体も変わっていきます。

「そこで、これまでのものさしのなかでものごとを考えるのか、新しいものさしのなかで考えるのか? そこ自体に優劣をつける必要はありませんが、いまの日本社会では、『新しいものさしを持とう!』というかけ声だけはよく耳にします。そして、そんな新しいものさしでの『頭の良さ』としてよく挙げられるのが、応用力や柔軟な発想力、またイノベーティブな思考や、コミュニケーション能力などと言われる力です

「学歴なんて関係ない」と軽く考えてはいけません2

学歴偏重の社会において重要になるのが、他者と協力するための「協働スキル」

そうであるならば、親としてはこれからの時代を見据えて、そのような柔軟な発想力やイノベーティブな思考といった力をどう子どもに育んでいけばいいのか気になるところです。ただ、これからの社会を生きる子どもの『頭を良くする』ことを考えるとき、親が押さえておきたいことがふたつあると鈴木先生は言います。

「ひとつは、『頭の良さ』のものさしがどう変わろうと、日本社会はまだ学歴がものを言う社会だという事実。これは、大卒者と高卒者の収入や働き方における差がさまざまなデータではっきりと表れており、その差はランクのちがう大学を比べたときよりも大きいことがわかっています。つまり、日本社会ではそれほど大卒という学歴が将来に与える影響が大きく、もっと言えば、『大学を出たかどうか』ということが、『大学でなにを学んだか』よりも意味を持つ社会なのです」

つまり、現実的には新しいものさしに期待し過ぎて、「これからの時代は学歴なんて役に立たない」などと安易に考えないほうがいいということ。そのことを踏まえたうえで、もうひとつ押さえておきたいこととして、鈴木先生がとりわけ注目しているスキルがあります。

「それが、『協働スキル』と呼ばれる力です。わたしは、この能力がこれからの社会ではとても重要になっていくと考えています。さしあたり、子どもの『頭を良くする』ことを考えたとき、これまでの社会で求められたような努力して学歴を獲得していくことだけではなく、そこから獲得した能力を使って他者と協力し、新しいものを生み出していくこと。そんな『協働スキル』こそが、子どもにとってもっとも重要な力になるのではないでしょうか」

■ 社会学者・鈴木謙介先生 インタビュー一覧「20XX年の幸福論」
第1回:“頭が良い”の定義とは? 子どもの知性を伸ばすために親が知っておくべき2つのこと
第2回:“ひとりの天才”をめざすよりも大切なこと。“みんなで協力”できる力の絶大な価値
第3回:スマホ依存の子どもには特徴がある。“異世界の多様な人々”との適切な関わり方
第4回:努力しても“いい仕事”には就けない。子どもは極端な格差社会にどう立ち向かうべきか

【プロフィール】
鈴木謙介(すずき・けんすけ)
1976年生まれ、福岡県出身。関西学院大学准教授。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員。専攻は理論社会学。ネット、ケータイなど、情報化社会の最新の事例研究と、政治哲学を中心とした理論的研究を架橋させながら、独自の社会理論を展開している。現代社会の様々な問題についてマスコミでの発信も多い。サブカルチャー方面への関心も高く、2006年より、TBSラジオで『文化系トークラジオ Life』のメインパーソナリティをつとめている。著書に、『カーニヴァル化する社会』(講談社)、『かかわりの知能指数』(ディスカヴァー)、『ウェブ社会のゆくえ』(NHK出版)他多数。

【ライタープロフィール】
辻本圭介(つじもと・けいすけ)
1975年生まれ、京都市出身。明治学院大学法学部卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌・ムックの編集に携わる。以後、企業の広報・PR媒体およびIR媒体の企画・編集を中心に、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。