あたまを使う/教育を考える/サイエンス 2021.1.19

「苦手つぶし」していませんか? 教育熱心な親が子どもの成績を下げている

今木智隆
「苦手つぶし」していませんか? 教育熱心な親が子どもの成績を下げている

新年が明けて2週間が経ちました。小中学校では冬休みが終わり、3学期が始まった頃でしょう。約2ヶ月半と、ほかの学期に比べてとても短い3学期。うかうかしていると、あっという間に新年度がやってきます。よい新年度のスタートを切るには、これから始まる3学期をどう過ごすかが重要です。

以前、算数はRPGと同じ「積み上げ型」の科目だとお話ししましたね。前に習った単元の積み重ねがあって初めて、新しい単元を理解することができる。それは言い換えれば、前の単元でのつまずきが、あとあとまで響いてくるということでもあります。わからない単元を持ち越したまま新年度を迎えたら、進級して早々、学習につまずいてしまうかもしれません。

そこで今回は、これまでのポイントを振り返りつつ、3学期を有意義に過ごし、子どもの成績アップにつなげるためのヒントを探っていきたいと思います。

朝学習×短時間型=効果的な学習法

思い込みや経験則を離れ、データに基づいた科学的な知見を重視する「エビデンス・ベースド」の考え方――本連載では、そんな「エビデンス・ベースド」の視点に立ち、算数のニガテが生まれる原因から効果的な学習法まで、データが示すさまざまな事実を見てきました。

3学期になると、学校や塾では子どもに「総復習」をさせます。でもじつは、「総復習」は効率が悪く、おすすめできない方法第6回連載でお話ししたように、この時期本当に取り組むべきは、算数の理解を支える2~3桁の位の理解」「図形の組み立て、立体の基礎」「目盛りの読み方」「円と直径・半径の理解の4つの土台の見直しです。

そして、新年度までの限られた時間で効果的に見直しを行なうには、効率よく学習することが欠かせません。第4回第7回の連載でも触れましたが、効率的な学習の鍵を握るキーワードは、「朝学習」「短時間型」朝の10分は、夜の20分にも相当します。集中力が切れにくい朝に、毎日少しずつ復習を進められたら理想的ですね。

「苦手つぶし」していませんか4

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子どもの「苦手」より「得意」に目を向けて

ここからは、おうちの方が子どもにできること、そして理想的なおうちの方の「あり方」についてお話ししたいと思います。RISUでの教育事業を通して多くのご家庭と接するなかで、私は日々、「最近の親御さんには本当に熱心な方が多い」と感じています。しかし、なかにはその熱心さが逆効果になってしまっているケースもありました。

ひとつめのケースが、「苦手つぶし」です。子どもの苦手を見つけると、それをつぶそうと必死になるおうちの方は多いもの。しかし多くの場合、おうちの方が必死になるほど子どもの成績は下がっていきます。たとえば先日、あるおうちの方から、こんなメールが届きました。

「時計の範囲はやっと100点がとれましたが、時間がかかりすぎました。もっと復習を頻繁に出していただきたいです。」

教育熱心な方ほど、成功のなかにもマイナス面を探し出してしまうようです。苦手な範囲で100点をとれたのに、きっとこの子はほめられてはいないでしょう。これでは、子どものモチベーションは下がる一方です。

「時間はかかったけど、100点をとれたね。やったね!」

こんなふうに、「できた」部分をほめてあげることが大切です。子どものために親ができる最大のことは、モチベーションをアップさせること。子どもの「得意」に注目して、自信をもたせることのほうが、「苦手」に注目するよりもずっと効果的なのです。

「苦手つぶし」していませんか2

教えるべきは、「解き方」ではなく「考え方」

もうひとつ、熱心なおうちの方が陥りがちなケースがあります。それは、「教える」のではなく「自分で解いてしまう」というもの。

私たちはよく、ショッピングモールなどで教材の紹介イベントをしています。そこでときどき目にするのが、子どもの代わりに自分が問題を解いてしまうおうちの方です。子どもが問題を解こうと一生懸命考えていますが、なかなか手が動きません。すると、30秒もした頃、おうちの方が後ろから問題をのぞき込み、パパッと解いてしまう。そして、「ほら、こうやって解くのよ」と言うのです。

このように、自分自身で解答を出して、それを示すことが「教えること」だと勘違いしているおうちの方は少なくないようです。しかしこのやり方は、子どもが試行錯誤し、自分で考えるチャンスを取り上げてしまっています。子どもの目の前で解いてみせるのでは、教えたことにはなりません。もし教え方に悩んだ際は、お子さまに合った学習教材や専門家の力を頼っていただければと思います。

「苦手つぶし」していませんか3

まわりの大人にできることは、ほんのわずか

ここまで読んでくださったおうちの方は、きっと「子どもの能力を伸ばしたい」「子どもの学力を底上げしたい」など、お子さんのことを本当によく考えていらっしゃる方のはず。子どものためを思うからこそ、つい気になってあれこれ手を焼いてしまう気持ちはよくわかります。

でも、ここでひとつ、忘れてはいけないことがあります。それは、「まわりの大人にできることはほんのわずか」だということ。これまで見てきたように、おうちの方の熱心さが間違ったほうに向くと、逆に子どものモチベーションを下げてしまうケースもあるのです。だからこそ、おうちの方には、子どもが伸び伸びと興味をもって勉強に取り組めるよう、全力のサポートに回ってほしいと考えています。

また、本連載で紹介してきた「科学的に正しい学習」は、正しいからといって子どもに押しつけるものでも、それができない子どもを責めるためのものでもありません。それらはあくまで、子どもとおうちの方の選択肢のひとつです。

3学期が本格的にスタートする前に、まずは子どもとよく話し合って、子どもが「おもしろそう!」「やってみたい!」と、興味をもって取り組めるものを選んでみてください。おうちの方は、その習慣が無理なく続くよう、応援とアシストをしてあげましょう。3学期のうちに、自分に合った学習習慣を身につけ、新年度を迎えること。それが、成績アップの一番の近道になるはずです。


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■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧
第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方
第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない
第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題
第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法